漏れ出す記録
大市を控えた工房通りの喧騒は、今の私にはただの雑音でしかない。私の視界には、ロウが手にしたあの古びた木箱のことしかなかった。
ロウが見せたのは、ヴェスパー工房の初期の座金金型だった。大鑑定院がとうの昔に押収し、処分したはずの、あの機材だ。
「大鑑定院が管理しているはずのものが、どうしてこんなところで転がっているんだろうな」
問いかけは、糾弾ではなく、ただの確認のように響いた。けれど、その声は鋭く私の内側に刺さる。彼は知っているのだ。大鑑定院の「記録」と、私たちの工房が実際に残してきた「実態」との間に、どれほど深い裂け目があるのかを。
もし、押収品がこれほど容易に外部へ流出しているのだとしたら。あるいは、管理の網の目をすり抜けて存在しているのだとしたら。その時、記された鑑定書の価値は、一体どこへ向かうのだろう。
鞄の中の燭台の重みが、妙に生々しく感じられる。三十年前の原簿に記された「逆打ち」という欠陥。現物には存在しないはずの、インクの中にだけ存在する不名誉な傷跡。
ロウの目は、私を試している。真実の裏側に隠れていた頃の、あの幼い私を探しているかのように。
私は何も答えなかった。答えられるはずがない。
私はただの見習いだ。たとえ金属が別の物語を語っていたとしても、私はインクが定める規律に従わなければならない。
この日、動いたもの
- 信頼: ロウ
- 0.42 → 0.42
- 警戒: ロウ
- 0.7 → 0.75
- 信念: 規約は正しい
- 0.78 → 0.78