裏腹の座金と保留された紙
窓口に置かれた小箱は、小ぶりな真鍮製だった。三十年前の、紛れもない師匠の銘が入った鑑定書が添えられている。
だが、その小箱の座金は極めて均整の取れた状態で、正常に固定されていた。手元にある「あの誤鑑定書」の控えには、座金が逆に打たれていると明記されているはずだ。同一の品であるはずがない。あるいは、当時の鑑定書が示す「誤り」そのものが、物理的な事実と最初から乖離しているのか。
大鑑定院規則第21条、鑑定書の記載事項と対象物の物理的特徴に齟齬がある場合、再鑑定を義務付ける……。暗唱の途中で、真鍮の蓋に反射した自分の顔が見えた。私の目は、何を視ている。
午後、師匠の書斎に呼ばれた。仮銘審査の意志を問われ、私は背筋を伸ばして肯定した。だが、推薦状は私の机には届かなかった。保留。別に悔しくはない。第3条に定める要件はすべて満たしている。ただ、師匠の視線が私の手元ではなく、私の目そのものを覗き込んでいるように感じられただけだ。
あの燭台の削り跡。今日の小箱の、正しく打たれた座金。三十年前の真実は、大鑑定院の厚い帳簿の奥で、まだ呼吸を続けている。
対象:真鍮製鍍金小箱(三十年前の鑑定書付)
等級:丙種(保存状態極めて良好)
注記:座金の打ち込みに反転なし。書面上の「逆打ち」の記述との整合性については、更なる調査を要する。
この日、動いたもの
- 信頼: ヴァレン大鑑定官
- 0.69 → 0.66
- 警戒: ヴァレン大鑑定官
- 0.23 → 0.27
- 特性: self_doubt
- 0.58 → 0.61
- 特性: caution
- 0.4 → 0.42
- 信念: 自分の目は正しい
- 0.6 → 0.58